大判例

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東京地方裁判所 昭和44年(刑わ)2582号 決定

〔抄録〕

被告人らは、あらためて国選弁護人を選任するよう希望していますが、当裁判所は、これを選任せずに審理を進めることとし、国選弁護人の請求はいずれも却下します。その理由は概略次のとおりです。

一、国選弁護人に関する憲法および刑訴法の趣旨について。

憲法三七条三項後段は、「被告人が自らこれ(資格を有する弁護人)を依頼することができないときは、国でこれを附する。」と定め、刑訴法三六条本文は、この規定をうけて「被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。」と定めています。この憲法の趣旨は、最高裁大法廷判決(昭二四・一一・三〇)が明らかにしているように、被告人が弁護人の保護を求める意思を有しているのに貧困その他の事由により自らこれを選任することができない場合に、その請求により国がこれを附することを定めたものであり、被告人が貧困その他の事由で弁護人を依頼できないときで、弁護人の選任を請求しないときは、国がこれを選任する義務を負うものではありません。すなわち、国選弁護人の選任は、憲法上は被告人の自由意思に委ねられているのであって、刑訴法三六条本文は、この趣旨を明らかにしたものであります。したがって、刑訴法二八九条が、いわゆる必要的弁護事件について、被告人の意思にかかわらず、また、請求の有無にかかわらず国が職権で弁護人を附すこととしているのは、最高裁大法廷判決(昭二八・四・一)が判示するように、憲法上の要請を超えて、法が別に定めた制度なのであります。

さて、必要的弁護の規定はしばらくおき、憲法および刑訴法三六条について当面する問題は、貧困その他の事由により、自ら弁護人を依頼することができず、かつ被告人らが国選弁護人の選任を請求する場合には、憲法は常にこれを附しなければならないものとしているか、という点にあります。被告人らは憲法三七条三項前段に「いかなる場合にも」という文言があることを理由として、そう主張しています。しかし、これはいかなる場合にも被告人は自ら弁護人(いわゆる私選弁護人)を選任できることを規定したにとどまり、国選弁護人の選任について適用があるものではありません。当裁判所は、被告人らが自らの責に帰すべき事由により、国選弁護人の選任またはその保護を受ける機会を失わせた場合には、憲法および刑訴法が保障している、国選弁護人の選任を受ける権利を放棄したものであって、その責に帰すべき事由が消滅しないかぎり、国は国選弁護人を附す義務を負わないものと解します。すなわち、すでに述べたように、憲法三七条および刑訴法三六条による国選弁護人の選任は、被告人の意思とは無関係な国の義務ではなく、被告人の自由意思に委ねられ、放棄の認められるものであります。したがって、被告人が選任請求権を行使しない場合はもとよりのこと、たとえ被告人が請求をした場合であっても、自らの責に帰すべき事由により、国の選任行為をさまたげ、または一旦選任を受けながら自らの責に帰すべき事由により、国選弁護人を解任するの止むなきに至らしめたようなときは、自らの意思で国選弁護人の選任請求権を放棄したものと評価するほかはありません。このことは、憲法三七条二項が保障する証人審問権の場合と同様であります。刑訴法三四一条は、「被告人が……秩序維持のため裁判長から退廷を命ぜられたときは、その陳述を聴かないで判決をすることができる。」と規定していますが、この規定は何ら憲法三七条二項に違反するものとは解されていないのであります。被告人らの責に帰すべき事由により国選弁護人を解任するの止むなきに至ったような場合にも、あらためて国選弁護人を選任しなければならないと解するのは被告人らの恣意的行動により、刑事司法を無用に混乱させることを容認することに帰し、到低許されません。憲法一二条が、憲法の保障する権利はこれを濫用してはならないと明記していることに留意すべきであります。なお、必要的弁護事件について刑訴法は弁護人の在廷を開廷の条件とし、被告人の意思にかかわらず国選弁護人の選任を国に義務づけています。したがってこの場合に被告人の責に帰すべき行状のあるときは、国選弁護人の選任と在廷を可能ならしめるよう、法廷警察などにより被告人に対し必要な措置をとることが前提となりましょうが、任意的弁護事件については、こうした措置をまつまでもなく、権利の性質上当然にこれに対応する国の義務を消滅させると解すべきであります。

二、本件において国選弁護人をあらたに選任しない理由について、

被告人らの請求により選任していた辻村精一郎氏ら六名の国選弁護人がいずれも資格のある有能な弁護人であって、選任以来、被告人らのために真剣かつ有効に訴訟活動等を行ってきたことは当裁判所に顕著な事実であります。しかるに、被告人らは、当初から、いわゆる統一公判の実現を要求するのみで、国選弁護人から弁護のために必要であるとしてなされていた具体的な要求に一切応じなかったばかりでなく、五月一八日の代表者打合わせ会においては、弁護人は信用できず、その冒頭陳述は期待していないなどといい、さらに五月二五日の代表者打合わせ会においても、弁護人の弁護活動を誹ぼう罵倒する発言をしたほか、定刻をはるかに超えたため退席しようとした山木弁護人に対し「一寸待て、このまま帰るのか、これで明日の弁論ができるか、或々を監獄に入れる気か」と口々にののしりながら暴力を加えて引きもどし、弁護人らを罵倒し続けるなど、いちじるしい非礼をかさね、ために国選弁護人全員は、もはや被告人らには誠実に弁護人らの弁護を求める気持がないばかりでなく、弁護人らにおいて弁護を続けるべき関係を被告人ら自身があえて破壊したものと判断し、五月二六日当裁判所に対し辞任の意思を表示したのであります。以上の事実は当裁判所の事実調べにより明白に認められます。この事実によりますと、被告人らは自らの責に帰すべき事由により国選弁護人が辞任をせざるを得ない状況を現出させたことが明らかであり、国選弁護人の選任を請求する権利を自ら放棄したものというほかはありません。裁判所が国選弁護人らを解任したのはまさにそのためであります。しかるに被告人らは、今日に至るまで、自らの非を反省することなく、一方的に弁護人を非難するのみであります。被告人らがこのような態度を一体となって維持する限り、被告人らは国選弁護人の選任権を放棄したものというべきであって、国があらためて国選弁護人を選任する義務はないものというべきであります。

(裁判長裁判官 斎川貞造 裁判官 香城敏麿 裁判官 田中正人)

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